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第1巻 祖国幻影
望郷−70年目のブラジル移民
帰郷−ある在日朝鮮人の場合
朝鮮凧−ニッポンは祖国にあらず
第2次大戦後、ブラジルの日系移民の間では「日本は勝った」と信じる人々が少なからずいた。例えば、サントスの港には各地から2千人もの日系移民が集まった。移民の長年の労苦に報いるために、戦勝国・日本の軍艦が、日の丸を翻らせて迎えに来るという噂が流れたのである。望郷の思いに駆られた移民たちが共同の幻影を見たのであった。
棄民という言葉がある。近代の国家はしばしば民を棄てたが、にもかかわらず棄てられた民は祖国幻想を捨てなかった。ブラジル移民のほか、日本生まれの在日朝鮮人、植民地時代の朝鮮で生まれた日本人と、国家の歴史によって祖国・故郷から引きはがされたゆえに、身をよじるように自分の存在の根拠を追い求めた3つのケースを取り上げる。
第2巻 菊と一銭五厘
地獄の戦線を生き延びた兵士たち
彼らにとっての戦後とはなにか
かつて、福岡、佐賀、長崎出身者で編成する「菊部隊」という精強部隊があった。天皇家の紋章である「菊」を冠された栄光の部隊だが、敗色濃いビルマ戦線では、武器も食糧の補給もないままに死線をさまよった。
その地獄の戦線から無事生還したのはほとんど奇跡と言ってよい。彼らは戦後の混乱期も高度成長の時代も、ただ黙って働き続けた。そして戦後30数年たって老境に差し掛かったとき、彼らの胸のうちから堰を切ったように噴出する言葉があった。
「一銭五厘」とは召集令状のはがき代であり、転じて兵士たち自身をいう。その一銭五厘たちがどういう思いでビルマ戦を戦い、戦争を全否定した戦後社会をどう生きてきたか。反戦平和という戦後的イデオロギーでは届きようもない元兵士たちの暗部を探る。
第3巻 辺境から
石牟礼道子の世界
『苦海浄土』が第1回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞したのは一九七〇年である(石牟礼は受賞辞退)。公害が露出した時代だったゆえに、水俣病を素材にした『苦海浄土』は「衝撃的な公害告発の書」と受けとめられた。
しかし作品の衝撃性はむしろ、神々と自然と人とが交歓し調和する近代が失った世界を現出した点にあった。水俣病は、そういった世界に対する近代の暴力の総体として出現したのである。自らがそのような世界に生の根拠を持ち、そこから絹糸をつむぐように言葉をつむぎ出す石牟礼道子の世界を読む。
島尾敏雄−宿命の島・奄美
昭和19年秋、九大在学中の島尾は志願して学徒出陣し、奄美の小島に着任した。それが島尾と奄美との宿命的な出会いであった。任務は、ベニヤ製のボートに爆薬を積んで敵艦に体当たりする特攻である。その、死を目前にした日々の中で島尾は島の娘と激しい恋におちる。二人は戦後結婚するが、島尾の不貞によって妻は精神を病み、奄美に回帰した。
そして20年。島尾はそこで「死の棘」をはじめとする数々の名作を生み、一方で、琉球弧から日本列島を逆照射する優れた文明論を構築した。島尾にとって奄美とは何か。作品とその生き方から見えてくるものがある。
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